「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」を観る2022年03月09日 18:04

 「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」を観る。1968年アメリカ、ジョージ・A・ロメロ監督作品。

 言わずとしれた「モダン・ゾンビ」映画の嚆矢。前編モノクロのドキュメンタリータッチで進行する。もうそれだけで怪しげなムードである。カラーを選択しなかったのは正解だろう。もしカラーなら、低予算で今からすればチープなところがあらわになって、作品の力をそいでしまったかもしれない。

 型破りな作品とも言えるだろう。1968年と言えば、まだまだ人種差別が激しかった時代に、主人公は黒人青年。しかも行動的で冷静、理知的である。これだけでも当時のアメリカでは衝撃的な設定だろう(ちなみに、USSエンタープライズのブリッジに若い黒人女性が士官として搭乗したのは1966年。これも当時は大きなインパクトがあった)。

 ヒロインはほぼ全編錯乱。白人中年男性は頑固でビビリ。ゾンビから逃れて立てこもった家の中では人間同士がいざこざで揉めている。白人青年は勇気ある行動をとるが、彼女が結果的に足を引っ張ってしまう。

 そんなドタバタの人間を取り囲むのはゾンビの集団。数もどんどん増え、最後にはなぜか全裸の若い女性ゾンビ(後ろ姿だけだが)まで。現代の我々にはお約束であるゾンビの属性もこの作品で確立しているので、リアルタイムで見ていた観客にはサプライズシーンも。現代人は予測可能なネタだが、だからこそ返ってハラハラさせられるなど、ホラーの基本に忠実で、びっくり箱映画にはなっていない。

 ラスト近く、ヒッチコックのあの有名な映画のシーンのオマージュのようなシーンもあるなど、乾いたユーモアも散りばめてある。そして、ラスト。当時のアメリカの(それは今でもあまり変わっていないかもしれない)社会の暗部を暗示するかのような結末。

 一段低く見られることもあるホラー映画だが、これは十分古典として成立している。60年代アメリカの社会を念頭に置いて観ると、また違った重さのある映画。