「ダンケルク」を観る2023年02月06日 21:03

 「ダンケルク」を観る。2017年、英・米・仏・蘭製作、クリストファー・ノーラン監督作品。

 海・陸・空の3つの視点で語られる、ダンケルクからの撤退作戦。それぞれの時系列は若干ずれながら始まり、やがて次第に緊密に結びついていく。そういう意味では小説的な構造だ。ダンケルク撤退については、コニー・ウィルスの「ブラックアウト」「オールクリア」の2作が取り上げているが、あの作品も時系列を操作しながら複数のストーリーをまとめ上げていた。偶然の一致だろうが、よく似ている。

 淡々と、シンプルに撮られた作品という感じを受けた。ノーラン監督の作品には長尺ものが多いのだが、これは短めの106分。焦点もイギリス軍の撤収とそれに関わる人々に絞られている。必要以上のドラマを持ち込むようなことはしていない。それがかえって登場人物のありように重みをもたせているように感じた。

 丁寧にあれこれ説明し、わかりやすくドラマで感情移入をむやみに煽ることもしていない。淡々と、そして苦しい選択を強いられながらも決して諦めない意志の強さを示す力強い作品。

「母の記憶に」読了2023年02月07日 20:31

 「母の記憶に」を読了。ケン・リュウの日本版アンソロジーの2冊め。

 母と子、家族、血縁、そういったものの強さ、しがらみ、悲しさが伝わる作品群。ウラシマ効果という古典的アイディアを使った切なくも秀逸なショートショートである表題作「母の記憶に」、清王朝成立前の満民族による揚州大虐殺(当然、満民族がその後打ち立てた清王朝の正史からは排除されている)を庶民の側から描く2作「草を結びて環を銜えん」「訴訟師と猿の王」、遠隔介護を取り上げた「存在」、ハードボイルドスタイルの「レギュラー」、そしてのちの「蒲公英王朝記」の雰囲気を感じる万味調和―軍神関羽のアメリカでの物語」、掉尾を飾る歴史改変ストーリー「『輸送年報』より『長距離貨物輸送飛行船』」と、どれも一級品。

 そしてなにより羨ましく感じるのは、作品の中にしばしば登場する中国の歴史や文化だ。漢詩を歌にして口ずさみ、歴史上の英雄たちの故事を誇らかに語る。こういうところに中国文化の裾野の広さを感じてしまう。

 おおらかで、力強く、しかし時の流れに抗いきれず滅び去っていく、または新しい姿で生き延びていく、そういった寂しさや切なさもしみじみと伝わってくる。ジャンルで色眼鏡をかけて食わず嫌いしているのはあまりにもったいない。

「VHSテープを巻き戻せ!」を観る2023年02月08日 21:25

 「VHSテープを巻き戻せ!」を観る。2013年アメリカ、ジョシュ・ジョンソン監督のドキュメンタリー映画。

 今となっては懐かしいVHSテープ。βとの規格争いや映画コンテンツ、レンタルビデオの勃興とそれに伴うコンテンツ製作のありようの変化を、愛情を込めて描いた作品。

 ビデオコンテンツに飢えた人々に対して、劇場では観ることが難しいマイナーな作品、B級作品が次々と発掘され、残されていく用になった顛末、安価な製作が可能となったビデオ制作コンテンツについての話など、興味深いものが多かった。

 ビデオ製作コンテンツと機を同じく誕生したAVの誕生と普及など、低予算で一定の条件さえクリアすれば何でもありの日活ロマンポルノが若手監督を輩出していく構図とよく似ている。またレンタルビデオで借り出したビデオテープの傷みっぷりが、他の視聴者がどこに注目をしたのかのマークとなるというのは、かつての古本の書き込みが勉強になっていた時代との類似を感じさせる。何度も繰り返し再生が自由にできるビデオテープが、映像制作者たちの学びを変革したというのも興味深い。

 押井守のインタビューがあるなど、日本でも馴染みのある話題が多い。考えてみればβもVHSも日本が開発したハードウェアだから、当然といえば当然か。

 確かに、ビデオで世に出た後、配信を含め観ることができなくなった(愛すべきB・C級)作品も多い。ビデオテープ時代にバカバカしさに笑い転げた「インベージョン・アース」をまた観たくなった。

ChatGPTを試す2023年02月09日 23:00

 chhatGPT を試してみる。

 google のアカウントでサインインして、スマホの電話番号を登録すると、ショートメールにパスコードが届く。それを入力すればすぐに使える。登録サイトは英文のみなので、そこはきちんと読むこと。たいして難しい英文ではない。

 日本語入力できるし、日本語入力すれば基本日本語で回答が返ってくる。悪名高い翻訳アプリよりずっとなめらかな日本語が返ってくる。時々質問によって日本語質問に英文で回答が返ってくることもあったが、「日本語で答えて」と明示すれば大丈夫。

 とはいえ、答えを鵜呑みにするのはあぶなそう。映画について聞くと、日本映画の英訳タイトルが返ってきたり、誤訳していたり、なぜかTV番組を答えたり。小説について聞くと、複数の作家の作品をごちゃ混ぜにして答えたり。

 しばらくは楽しいchat 相手になりそう。ご意見番になってくれる可能性も否定できない。

恐ろしい既視感2023年02月10日 20:46

 紛争を収益源とし、紛争をコーディネートし、武器や兵士を紛争地に供与して利益を得る。

 紛争や治安の乱れに乗じて、抑圧される側に加担して軍事供与を行い、支持を得ることで権力を掌握し、抑圧される側を事実上の支配下に置く。抑圧された側からは「救世主」と目され、圧倒的な支持を得る。

 昭和のマンガやアニメに詳しい方なら、ピンとくる人も多いだろう。これは死の商人、「ブラックゴースト」の設定そのものだ。

 これがマンガの話ならばともかく、現実によく似た集団が存在している。かつてヒトラーも入れあげたという某作曲家と同じ名前の軍事企業。

 「ブラックゴースト」はあの「ショッカー」の前身のような存在だ。「ショッカー」がナチスをそのモデルとし、カルト集団と非常に類似しているのは論をまたない。

 我々は自国の生み出したサブカル・コンテンツの中に、現実の恐怖を読み取っていいのではないか。